私と芝居久しぶりだった。役者の熱っぽい演技と飛び散る汗。観客の熱気、喉を
突くような乾いた空気・・・。私は学生時代の4年間、ほとんどの時間
を、この空間で過ごした。まるで故郷に帰った時のように、なつかしさ
で胸がいっぱいになった。
先日、銀座セゾン劇場で、つかこうへい演出「飛龍伝'92」を観る機会
があった。テレビ局の仕事に就いてからは、劇場から足が遠ざかってい
たので、芝居を観るのは約1年ぶり。この1年間は、何となく劇場へ行
くきっかけを失ってしまっていた。芝居への情熱がなくなってしまった
せいだろうか。
そもそも、大学は演劇評論家になるために、演劇専攻を選んだのだが、
すぐに、自分が演じることへの魅力にとりつかれ、年に4本の芝居に出
演し、月に15本以上もの芝居を観た。今、考えると、タフというか、
無謀というか・・・。シェークスピアはもちろん、歌舞伎、狂言、ミュ
ージカル、小劇場。手当たり次第という言葉がピッタリだろうが、ジャ
ンルを問わずに何でも観に行き、チャンスがあれば、どんな作品にも参
加した。
だが、演劇はたった1〜2時間の間に、1人の人間の人生を演じるもの
である。等身大の私からは大きくかけ離れた1人の人生。それを演じ、
1つの作品とするまでには大変なエネルギーが必要である。 1本を創り
上げるだけでも大変なものを4本も手がけ、24時間とにかく様々な作
品を見続けるうち、私は自分が本来、演劇に対して求めていたものを見
失ってしまった。
大学卒業後、この世界から遠ざかると、私と芝居の間にはさらに大きな
隔たりがあった。何かを演じる、という感覚を忘れたかったのかもしれ
ない。ところが、「飛龍伝」を観ていて、もうすでに、自分が観客の1
人として、純粋に芝居を楽しんでいる事に気がついた。自分の職業と言
えるものができて、演劇を冷静に、客観的に見られるようになったから
だろうか。
今では劇場は、私にとって”心の故郷”。これからは、1人の観客とし
て演劇を愛し、接していこうと思っている。