小僧物語・第17話

       〜久々の独身生活は本当に楽しいのだろうか?

 実はあまり書くことがない。というのも1月14日から妻が詩央を連れて、北海道に里帰りをしている。従って詩央の行動を観察することが出来ないのだ。妻からは毎日のように電話がある。伝聞のかたちでしか書けないのだが、詩央の下の歯茎が少し割れてきたらしい。つまりもうすぐ歯が生えてくるらしい。帰ってきたときに、

「もう生えちゃったよ〜ん」

などと言われたら、僕は逆上して無理矢理に詩央の歯を押し戻し、ふたたび生えてくる現場をこの目で確かめるという暴挙に出かねない。子供が成長していく様を常に見ていたいタチなのだ。

 それと詩央が昼寝をしている最中に、理容師をしている叔母さんが、

「あたしが髪、切るっしょ〜」

とおもむろにはさみを取り出し詩央の髪を切り始めたら、詩央が頭を動かしてしまって少し血が出たらしい。こちらはもし現場に居合わせたら違う逆上の仕方をしていたに違いない。子供が怪我をする様は極力見たくないタチなのだ。

 それから妻がお姉さんと一緒に詩央を連れてお祭りに行ったら、出店のオバちゃんに、

「おかあさん、これ買って行きな!」

と、お姉さんが声をかけられたそうだ。妻が心の中で、

「フッフッフッ。本当はあたしがおかあさんなのだ」

と密かにほくそえんでいたら、今度は妻に向かってオバちゃんが、

「だんなさんもどうだい」

と言ったらしい。

 妻は日頃からよく男に間違われる。身長が173cmで、髪を短くしてジーパンばっかりはいていればまあ仕方ないのだが、新婚旅行でハワイのビーチを手をつないで歩いていたら、スレ違った外人に『ホモ』と勘違いされた。そういえば昔、同期の池谷亨アナのところに、

『池谷さんと梅津さんは「亨」「アニキ」と呼び合う仲だと学校中の噂ですが本当でしょうか』

という葉書が来ていた。池谷も梅津も当時は男からファンレターが来ることが多くて、それぞれに「ホモ説」があったのだが、二人がアヤシイ関係であるという話はこの時が初めてだった。まったくそんなことを学校中で噂されるのも困りものである。真相を明らかにしておくと、僕と池谷は「ウメちゃん」「とーるチャン」と呼び合う仲なのだ。まいったか。

 どうも話がどんどん詩央と関係ない方向に流れていくが、こういう話の方がウケそうなところが恐い。

 妻の実家は北海道で農業を営んでいる。牧場で牛も飼っているから娘に子供が生まれたといってそうそう家を開けられないという事情があり、今回の里帰りによってようやく肉親の対面が実現した。まるで北朝鮮=朝鮮民主主義人民共和国に渡ったままのいわゆる日本人妻の里帰りのような状況である。初孫ではないにしても末娘の子供ということで相当可愛がってもらっているようだ。

「どうして末娘の子供だと可愛いのだ!」

と詰め寄られるとちょっと根拠がないのだが、僕なんか妹が生んだ子供も可愛くて可愛くて仕方がないのだからきっとそうなのだ。妻の実家では妻の里帰りを心待ちにしていたに違いない。

 一方僕も妻の里帰りを密かに楽しみにしていた。「妻が出掛けていない」という事実と、心の中の『グフフフフ』というアヤシげな笑いは光ケーブルでがっちりと結び付いているものである。妻が里帰りする一週間も前から、結婚している大浜アナや斉藤アナに、

「来週からカミさん、いないんだ(ニヤッ)」

と唇の端の方だけで笑いを作りながら予告し、そう言われた方は言われた方で、

「そうなんですか(ニヤッ)」

と、必ず同じような笑いをくっつけて返してくる。この「かみさんがいなくなることによる(ニヤッ)の2乗」の法則は既婚男子共通の習性であると思われるので、皆さんもぜひ今度観察してみてください。

 妻が出かける前は、

「ヤッコさんがいねぇ間に、あれもしてこれもしてそれもして・・・」

と実に様々な計画を立てていたのだが、いざ独身に戻ってみるとまるでそんな余裕がない。

 まず2週続けての大雪でまたも交通マヒの心配が生じたため、せっかくの休日なのに早めに会社に行って、そのまま泊まりで翌朝の放送をしなければならなかった。しかもそういう週末に限ってなぜか単発の仕事で休日出勤をするはめになったりするのだ。おまけに炊事、洗濯、掃除、ゴミ出し、買い物とやることだらけなのだ。改めて「主婦はエライッ!」ということを実感する。

 そしてようやく時間が出来ても、次の日の勤務のことを考えると夜遊びも出来ず、地味にMacintoshとお友達になってたりするのである。実は今Macintoshをいじり始めると止まらないという、第3次Macはまり期の真っ只中なのだ。

 第1次は日がな一日インターネットに明け暮れていた。

 第2次はphotoshopでアートにはまった。

 そして第3次の今、僕はMacintoshにRolandのミュージ郎を繋いで作曲・編曲に励んでいるのだ。もともとアナウンサーは世を忍ぶ仮の姿で本業はミュージシャンを自称する僕がこんなパワフルな音楽ツールを手にしてしまったんだからハマらないわけがない。学生時代に一緒にバンドをやっていた友だちも作曲ソフトにハマっていて、我々二人とコンピューターでバンドを再結成する話も持ち上がっている。

 まあ、そんなこんなで妻と子がいない中、それなりに暗く地味に一人暮らしを楽しんではいるのだが、やっぱりいつも詩央がおすわりをしているリビングががらんとしているのを見たり、いつも詩央と入っていたお風呂に一人で入っているとちょっと寂しい気持ちになる。この文章を書いている最中にも妻から電話があったのだが、

「とーちゃんのテレビつけててもなーんの関心も示さないよ」

なんて言われると、僕はこのまま詩央から忘れ去られてしまうのではないかという不安がよぎる。やっぱり家族は一緒にいるのが一番だなぁ、などと妙にくすぐったくなるようなことを思ったりするが、帰ってきたら帰ってきたで、また詩央に振り回される日々が始まるのだろうな。                                                          (1998.1.21)

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