小僧物語・第21話
〜小僧の数だけ小僧物語が生まれるのである
2月18日に後輩の斉藤一也アナに長男が誕生した。「斉藤アナが一児のパパになった」という書き方もないではないが、男親など所詮はネタを提供したに過ぎず、辛いつわりや出産を乗り越えたのは奥さんであり、無事に生まれてきたのは子供であるから主語にすることもないのだ。僕も詩央が生まれたときは、自分が父親になったというよりも妻が子供を産んだという感覚であったことは、この連載の第一回に書いたところである。今だに父親とは何かということに対しておぼろげな答すら見い出せず、右往左往しながら詩央と遊んだり、いたずらに対して叱り飛ばしたりしているのが現状である。
「父親とは何か」ということについて、ジャパンマシニスト社の『ちいさいおおきいよわいつよい」という本が特集していた。読むと大半は妻や子供からの父親に対する不満が綴られている。
妻からの不満で目立つのはやはり、旦那が子育てに協力的でないということである。中には、
「そんなやつは父親失格だぁ!」
と叫び出してしまうような内容のものもあるのだが、じゃあ僕が父親合格なのかとわが身を振り返ってみると、あまり自信がないな。
それから、
「どうして男は子供が病気になっても仕事を休めないのだろうか?」
「日曜日にも仕事に出掛けてしまう。他の人に頼めないのか?」
という疑問もあった。いざという時には会社を休みたいと思っていても、働きバチ型企業戦士として出世していった上司の理解が得られないというケースも多いだろう。まわりは誰も子供のことで休んでなんかいない、という状況が休む権利を主張しにくくさせてる面もある。家族の形は時代とともに大きく変化したが、会社の形は全然変わっていないということか。もっとも、一見進んでいるように見えるテレビ局も出産・育児については全然進んでないけどね。
子供からは「もっと一緒に遊んで欲しい」という声が多く聞かれる。
「どうしてパソコンばかりやってるの?」
なんていうドキッとするような発言もあるので、詩央に物心がつくころには子供と一緒に遊べるソフトを導入しようと、あくまでパソコンいじりはやめない方向に心が向かってしまうのだが、電磁波の影響とか視力の低下なんてことも脳裏をかすめる。今のところ僕は妻や子供が寝ている時間に出社して日中は家族と過ごす時間に恵まれているからいいのだが、3人で買い物に出かけると、上の子の手を引き、下の子を抱っこして大きな買い物袋を下げて歩く母親の姿をよく目にする。あちこちに飛んで行こうとする上の子を叱りつつなだめつつすかしつつ、『マミーポコ特売!Mサイズ、Lサイズ1個1280円!お一人様3個まで!』というコーナーに突進していくおかーちゃんたちを見ると、改めて子供を育てるのは大変だぁと思う。家のことと育児のことはぜ〜んぶ妻の仕事!なんて言えなくなるのだ。一方、そういうおかーちゃんたちを横目に、妻と2人でマミーポコを合わせて6個も買えてしまうわが家の幸せをしみじみと感じるのでありました。マツモトキヨシの特売たまごだって2人で行けば2パック買えるんだもんね。
ところで斉藤アナである。出産の2ヵ月程前に斉藤アナが、
「梅津さん、姓名判断ソフトを貸して下さい」
と言ってきた。
「バカモノ。ソフトというのは貸したり借りたりしてはいけないのだ!テレビ局の人間が権利を軽んじるとは何事だ!」
と、僕は先輩らしくビシッとたしなめた。その数日後斉藤家のMacintoshに姓名判断ソフトがインストールされたのであるが、これが果たして梅津家からの利益供与であったのかどうか、関係者は固く口を閉ざしているが現在特捜部が慎重に捜査を進めている模様である。

「詩央」に影響されたわけではないのだが、斉藤アナは子供の名前に「詩・歌・奏・音」という文字を使いたいという希望を持っていた。斉藤アナも僕と同じくアマチュアミュージシャンであり、僕のおたく的フォークソング話についてこられる唯一の局アナなのである。いろいろ考えた名前を検索すると、どれもこれも字画に難のあるものばかりであった。そして斉藤アナは画数についてはあまり気にしないことにした。その結果付いた名前は『瑠音(るおん)』であった。
梅津家の場合、本名「しおう」で呼び名が「ショーン」であるから、斉藤家だと「るおん」で「ローン」になる。住宅ローンに追われる斉藤アナの人生が子供の名前に反映されてしまったわけだ。『名は体を表わす』というが、皮肉にも親の体を表わしてしまった。
僕がそういう指摘をすると斉藤アナは、
「そんなこと、考えてもみなかったですよ」
と笑っていたが、その後アナウンス室総動員体勢で『るおん=ローン』説を力説されたようだ。将来のあだ名が「むじんくん」にならないことを祈りたい。

しかし『瑠音』ぐらいで驚いていてはいけないという事態が発生してしまった。2月26日には茅原ますみアナが次男を産んだ。ちなみに旦那さんはフジテレビの笠井信輔アナである。笠井さんは長男が生まれたときにお昼のワイドショーの生放送を休んで出産に立会い話題になったが(このときの顛末は笠井さんの著書「ぼくの出産日記」に書いてあるので興味のある方はぜひご一読を)、今回も夕方のニュースから見事に姿を消した。
笠井家の長男は「優之介」だが、次男は「春ノ丞」と命名された。僕も随分昔にそういう侍っぽい名前を子供に付けようと思ったこともあるが、もともと「介」も「丞」も律令制度の位の名称だよなぁ、と思ってやめた。彼らの将来のあだ名が「おぶぎょう」にならないことを祈りたい。
しかし、「瑠音くん」であろうと「春ノ丞くん」であろうと、基本的には人様の子供の名前であり、それぞれの両親が一生懸命子供の幸せを願って付けたものであるから一向に構わないのだが(と、「詩央」に関しても思われているんだろうな)、このような変わった名前の子供が自分のまわりに登場すると困ることもあることが判明した。
詩央が生まれたときに頂いたものの中で、僕は「17 June,1997 Shiou」と刺繍が入ったよだれかけをいたく気にいったので、今回笠井家・斉藤家にそれぞれの子供の名前を刺繍したよだれかけを贈ろうと思ったのである。妻と子供を連れてデパートのベビー用品売り場に行き、注文をしたときのこと。店員が、
「刺繍するお名前をお伺いします」
と言った。
「えーと、片方は瑠音です。」
「はっ?」
「いや、あの、るおん。英語でR U O Nと入れてください。」
「は、はい。畏まりました。で、もうひと方はどうなさいますか?」
「こっちはですね、その、春ノ丞です。」
「えっ?」
「あ、あの、漢字でですね、季節の春にカタカナのノ、それに遠山左右衛門丞の丞です。」
「はあ。恐れ入りますがこちらに書いて頂けますか?」
などというこっぱずかしいやりとりが展開されたのである。

そのやりとりの間にもベビーカーから手を伸ばしていたずらをしようとする詩央に、
「ショーン、ちょっとおとなしくしてなさい!」
などと言うわけだから、店員や店にいたお客さんからは、
「まったくこいつらは『ショーン』だの『ルオン』だの『春ノ丞』だの、親同士結託して子供にアホな名前付けて喜んでいるバカタレなのだろうな」
と思われたに違いない。
(1998.3.11)
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