小僧物語第8話
〜流山に小僧たちの泣き声がこだまするのだ〜

 10月17日で詩央は丸4ヵ月になった。3ヵ月以降は恐るべき高度成長にもややかげりが見えはじめ、逆に活発に動くようになった分、丸々と太っていた体もこころなしか締まってきたようである。しかし、依然として標準サイズを上回る4ヵ月児であることには変わりはない。10月8日に3ヵ月健診を受けたのだが、その時の体重が8500g、身長が65cmであった。厳密には3ヵ月と21日目の体重ということになるが、育児雑誌の付録の『月齢別発育発達見くらべ大図鑑』を見ると、4ヵ月の赤ちゃんの参考例として、

「4ヵ月と11日目・桃花ちゃん/59.6cm/6200g」

「4ヵ月と11日目・慶ちゃん/67cm/7800g」

「4ヵ月と16日目・展平ちゃん/65cm/6600g」

という三人が紹介されている。うちの子は4ヵ月に満たない時点で、この子たちみんなの体重を超えていたわけだ。(『こえていたわけだ』を変換したら『肥えてい戯けだ』になった。妙にムカツク。)

 しかも読者からの質問のページには、

『3ヵ月ですでに7000g以上もあります。将来肥満になるのではと心配しています。』

なんていうのがある。

『赤ちゃん時代に太っていても、それが肥満につながるわけではありません。動きが活発になるとだんだんスッキリした体型になってくるでしょう』

という答えになっているが、3ヵ月で7000gになったぐらいで肥満を心配されていたのでは、うちの子の立場はないのだ!

 ところで、妻が会社勤め(実業団のバスケットボール選手も一応はOLです)をしていた頃の同僚のイケちゃんという男性が、僕より5日ほど遅れて男の子の父親になった。子供が生まれた日はズレてしまったのだが、実は予定日がまったく同じ6月27日だったので大笑いした。なぜなら予定日が同じということは、単純に考えれば仕込みの日も同じということで、まあ、同じ日にそういう作業をしていたかもしれないと考えると、やはりなんかおかしいわけですね。

 で、それはともかく、わが家では月に一度のペースで妻の友人たちを中心にあやしい鍋の集いを開いているのだが、10月18日に行われた『第3回あやしい鍋の集い・美食家絶賛!本場秋田のだまこ鍋を食するの会』に、そのイケちゃんと奥さん、そして子供のシンちゃんが初参加したのである。ちなみに『だまこ』とは、きりたんぽが団子状になったようなものである。

 千葉県流山市にあるわが家に車で来るのにイケちゃんは横浜方面からなぜか一般道路を使ってやってきたようで、

「青砥で渋滞につかまってしまった」

という遅刻予告電話が、午後7時近くにかかってきた。みんなは6時過ぎには集まってきていて、シンちゃんの到着を今か今かと待っていた。青砥で渋滞につかまると、わが家まで早くて1時間はかかる。みんなが楽しみを先延ばしにされて落胆の表情を浮かべる中、詩央のとーちゃんはシンちゃんと詩央がいつバトルを展開してもいいように、一人黙々と詩央に左ジャブの練習をさせていたのでありました。

 イケちゃんが、奥さんとシンちゃんを連れてわが家に到着したのは案の定午後8時を過ぎた頃であった。イケちゃんが運んできたベビーキャリーの中にいたシンちゃんは、明らかに詩央よりも一回りサイズが小さく、詩央のサイズに慣れてしまった僕の感覚でいうと、退院したばかりの新生児のようであった。周りの反応も、

「キャーッ!シンちゃん、ちっちゃくってカワい〜ッ!」

という具合で、初登場の魅力と絶対的対比による赤ちゃんらしい小ささにすっかり心を奪われてしまったようである。

 そうなると、とーちゃんの心の中にはにわかに、

「コノコノ!でかくたってうちの子の方が可愛いのだ!大きいことはいいことだ!大は小を兼ねるのだ!ハイリハイリフレハイリホ、大きくなれよ!」

と意味不明のジェラシーに占拠され、一刻も早い1対1形式での直接対決が望まれる状況と化すのであった。

 やはり、時をほぼ同じくして生まれた子供とじっくり比較してみると、子供の成長というのは個人差がかなりあるものだということが実感できる。詩央の発育のペースはかなり規格はずれのもので、シンちゃんはきわめて正しい4ヵ月児のペースを守っていた。したがってイケちゃんは詩央の一挙手一投足にいちいち感嘆の声をあげるのであった。中でも詩央がすでに寝返りを打つというのが、まだ首のすわりもいまひとつおぼつかないシンちゃんのパパにとっては天地鳴動的超大型で非常に強い勢力の台風のような衝撃の出来事のようであった。

 またまた育児雑誌の付録の『月齢別発育発達見くらべ大図鑑』にご登場を願うが、5ヵ月の子供がようやく寝返りをマスターしたとあったり、あるいはまだ練習中だったりしている。詩央の場合は3ヵ月のなかばくらいから体をグイッとよじるようになって、とーちゃんやかーちゃんにお尻をおしてもらったりすると「コローン」と寝返りを打つようになっていた。そして程なく4ヵ月に入る頃には一人で勝手に「コローン」と寝返りを打つようになってしまったのである。ひとたび「コローン」を覚えてしまうと、ちょっと目を離したスキにもう「コローン」とうつぶせになってウハウハ言って喜んでいたり、あるいはプレイジムに腕をひかっけてビービー泣いてたりするのだ。一時期『クローン羊』や『クローン猿』のニュースが世界を騒がせて、そのうち『クローン人間』も登場するのではと言われていたが、うちの子はそれにさきがけて『コローン人間』になってしまったのである。

 そうしてついに、詩央とシンちゃんを一つの布団の上に並べて寝かせて、記念撮影でもしようじゃないかという運びになった。シンちゃんはいきなりよその家で初対面の大人たちに囲まれて不安な気持ちになってしまったようで、少しグズり気味の半泣き状態になっていた。その点詩央はホームスタジアムでのゲームであり、取り囲むサポーターたちにも慣れたもので、有利に試合を展開できそうな状態であった。などと書きながらも、一体何の試合なのかは自分にもよくわかっていない。やがて詩央はシンちゃんの手を握り始めた。サポーターの女性陣からは、

「キャー、シンちゃんとショーンが仲良ししてる〜っ」

といった感嘆の声があがり、取材陣から一斉にフラッシュの嵐が浴びせられた。

 しかし赤ちゃんには握ったものをなんでも口に持っていくという習性がある。詩央ももちろん例外ではない。それがクマちゃんの人形だろうが、とーちゃんの指だろうが、シンちゃんの手だろうが構わず口に運ぶのである。詩央はシンちゃんの拳をグイッと口元に引き寄せてチュパチュパしゃぶり始めた。シンちゃんは詩央の先制攻撃ですっかり戦意を喪失したようで、ギャーギャー泣きはじめてしまった。

「ワハハハ。この勝負、詩央の勝ちのようだな」

と、とーちゃんは密かにほくそえんでいたのだが、シンちゃんのあまりの泣き方に詩央も連鎖反応を起こして泣き出してしまった。あとは詩央とシンちゃんの『流山山麓男性ソプラノ泣き声合唱隊』のオンステージとなり、この勝負は決着を次回に持ち越すことになったのであった。

                              (1997・10・29)

このページについてのご意見ご感想はこちらjohnny@ra2.so-net.or.jpまで